運命とは必然なもの

03


彼女は美しい








顔はもちろん美しいのだが








なにより








その瞳が美しいと思った








俺はもう彼女に捕らわれてしまったのだろうか








「なぁ、あんた、名前は?」
大学の近くの喫茶店に入り、俺はコーヒーを
彼女は紅茶を飲んでいた
「ロイだ。」
「ファミリーネイムは?」
「・・・・・・・・それは教えられない・・・・・。」
彼女には悪いがファミリーネイムは教えることができなかった
でも、彼女になら教えてもいいかもしれないと少しだけ思った
「ふ〜ん。教えたくねぇんなら別にいいよ。無理に聞こうとしないからさ。」
「すまないな。」
正直驚いた
今までの女なら何がなんでもファミリーネイムを聞き出そうとしてきた
だが彼女は違った
本当にどうでもいいという風だった
「じゃあ、歳は?」
「34歳だ。」
「へぇ〜もっと若いと思ってた。」
「君はいくつなんだね?」
「俺は20歳だぜ。」
14歳差か・・・・・・・・・
「君は・・・・・・・」
「ちょっと待った!」
「・・・なんだい?」
「その“君”っていうのやめてくんない?寒気がする。エドでいいぜ。」
「わかった。」
「あんたは年上だからロイさんって呼んだほうがいいのか?」
「ロイでいいよ。」
「ん、わかった。」
今まで女には呼び捨てで呼ばせたことなどなかった
不思議と自然に俺も呼び捨てで呼ぶのだから呼び捨てでいいと思った
こんなことは初めてだ
「で?話の続きは?」
「ああ、エドは錬金術科なんだろ?錬金術使えるのか?」
「もちろん。初めて錬金術を使ったのはー、えっと、確か5歳ぐらいだったと思うぜ。」
「5歳?!早すぎないかい?」
「俺の親父が錬金術師だったんだよ。だから親父に教えてもらったんだ。教えてもらってたら自然とできたな。それからかな、俺が錬金術にのめりこみ始めたのは。今じゃ大学で勉強するぐらいだもんな。俺の幼なじみがよく俺のこと『錬金術オタク』って言ってたよ。」
「好きなんだな、錬金術が。」
「ああ、大好きだよ。1番嬉しいのは誰かの役に立った時だな。」
そう言って錬金術の事を語る彼女の顔はとても輝いていた
特に瞳が
瞳の奥がキラキラと光っているかのようだった
その瞳を自分に向けたいと思った
「エド、実は俺も錬金術が使えるんだ。」
「えっ?!マジ!!どんなの?」
輝いている瞳が俺の方を向いた
「この発火布にサラマンダーの練成陣を書いてあるんだ。これをはめて指をこすると焔がでるんだ。」
「へ〜。すげぇ〜。ロイが考えたのか?」
「ああ、長年の研究の成果だ。」
「すっげぇな!!よくそんなこと考えつくな!」
エドが興奮していると喫茶店に掛かっていた大きな時計が4時の合図を鳴らした
「あっ!いけねぇ!俺もう帰らないと。レポートを仕上げないといけねぇんだ。」
「じゃあ、家まで送るよ。」
「いいって。俺結構強いんだぜ!」
「そんなこと言って、昨日からまれてたじゃないか。」
「あれは、履き慣れないスカートにブーツだったから動きにくかったんだ!今日はズボンにシューズだから大丈夫だよ。」
「では、ここは俺に払わせてくれ。」
「ダメだ。俺が誘ったんだし、ロイが払ったらお礼にならないじゃねぇか。」
「エドを送れないんだ、ここで払わないと男が廃るよ。」
「う〜、わかったよ。じゃあ、ご馳走になります。」
「気にしないでくれ。」
彼女を送れないのは残念だがこれだけは譲るわけにはいかない
女性におごらすなんて俺のプライドが許さない
「じゃ、今日は楽しかったぜ。」
「俺も楽しかったよ。」
「俺こっちだからじゃあな!」
「ああ。」
店の前で別れた彼女を目で追っていた
彼女の黄金の髪が左右に揺れ、人ごみの中でも見失わないぐらい輝いている









こんな女初めてだ








俺が忘れられないなんて








俺が離れたくないと思うなんて








彼女は錬金術師だと言っていた








だからかもしれない

自分の錬金術を他人に

しかも女に見せ説明するなんて








あんなに光輝いた女を見たのは初めてだった









こんなに会いたいと思うのも初めて








しかし俺と彼女とは相容れない








例えるなら彼女は太陽

俺は月








太陽と月は決して交わることはない








俺は月にもなれないかもしれない








この場所にいる限り・・・・・・・・・